ピロリ菌でもわかる放射線防護シリーズ。
シーベルト
シーベルトは、生体の被曝による生物学的影響の大きさ(線量当量)の単位。
前回の記事で説明した放射能の強さを表す単位「ベクレル」のままでは、生物が放射線を浴びたときの影響を測るには不便です。そこで、 放射線による生物学的影響を共通の尺度で評価するために考案されたのが「線量当量」という考えであり、それを表す単位が「シーベルト」になります。
一言で言うと「放射線の種類ごとのヤバさを考えた上で、健康被害へ与える影響はどれくらい高いか」という指標が「等価線量」です。放射線と一言に言っても、アルファ線やベータ線、ガンマ線や中性子線など様々な種類やエネルギーを持った放射線があって、それに応じて係数(放射線荷重係数)が変わってきます。具体的には、ベータ線、ガンマ線の係数は 1、アルファ線の係数は 20 となっています。ガイガーカウンターが「ピッ」と鳴って何か放射線を観測した時、飛んでいる放射線がアルファ線の場合では、ガンマ線の場合と比べて 20 倍ヤバいですよ、ということです。
この係数についてですが、どういう根拠で決められているのかはよくわかりませんでした。過去に被曝した人の追跡調査ですとか、動物実験での結果から求められているものと思われますが、きっちり 20 という数字が出るわけでもないと思うので、何らかの経験上の数値なのだと思います。
健康への影響を考える場合、話は等価線量だけで終わらなくてですね。上西もここまでは理解していたのですが、この先があるのです。ヒトの身体は様々な臓器からできていますが、それら臓器ごとに放射線を受けた時の影響(放射線感受性)がまた異なります。例えば、同じ等価線量の放射線を受けても、皮膚組織はあまり影響を受けないけれども、造血細胞のある骨髄や生殖細胞のある生殖腺は影響を受けやすい、といった理由です。この体組織ごとの放射線の影響の受けやすさまで考慮した値が「実効線量」と呼ばれています。
例えば、等価線量で 100mSv を皮膚に浴びた場合の実効線量は 1mSv と計算されますが、骨髄での実効線量は 12mSv と大きく違った値になります。ここを注意しないで、単に「100mSv」 と言われて「ガンになる!危ない!逃げろー!!」となると You, smart じゃないわけです。
ただ、実効線量については、それぞれの臓器を取り出して測定するわけにもいかないため、体内に取り込んだ放射性物質の量から被曝量を計算して求めるようになっています。それが、実効線量係数をまとめた表です。ここまでの計算をして、ようやく生体への放射線の影響量を求めることができるのですね。
等価線量も実効線量も単位はどちらもシーベルトで表されます。「100mSv 以上は危ない」とか「ガイガーカウンターが 100μSv/h を示した」とかいう文言を見聞きしますが、等価線量と実効線量ではその意味が大きく異なってきます。ですので、シーベルトで表された数値だけを見て騒いでも、あまり意味がありませんよ、ということです。
放射線を浴びたことの健康への影響について、放射線量とガンなどの発症率は比例関係にあると思われるものの、やはり確率の話なので、ここまで浴びても大丈夫! という線引きは絶対にできません。高線量の場合でも、2 Sv の放射線を全身に浴びると 5% の人が死亡し、4 Sv で50%、7 Sv で99%の人が死亡すると言われている、という程度で、有益な指標を示せるほどの実例がありません*1。また、低線量では、統計上も 100mSv 以下の被曝では「影響は無いだろうと言われている」というだけであって、それをどう見るかは人次第なのです。
ただ、それでも、一体何がどれくらいの放射線を出しているのか、どれくらいの放射線量だと危ないのか、という目安を知っておくのは重要だと思います。
原子力災害やら何もなかったとしても、自然は放射線に溢れています。宇宙からは宇宙線が飛来していますし、放射性同位体の存在によって地殻からも放射線が放出されています。これらを「自然放射線」と呼びます。また、人類の活動(核実験や原子力発電など)によって発生した放射性物質によるものを「人工放射線」と呼び、これらを合わせて「環境放射線」と呼びます。環境放射線はどんなに頑張っても(鉛のシェルターの中に逃げこむとかは別)、我々が日常生活を送る上で被曝せずにはいられない放射線のことです。
前の記事でヒトも放射性物質(放射性同位体)のカリウム 40 を含んでいるという話をしましたが、身近な食べ物でカリウムを多く含む食品があります。それがバナナ。つまり、バナナを 1 本食べると、放射性物質のカリウム 40 によって被曝してしまうというのです。では、一体どれくらいの被曝量なのでしょうか?
これをバナナ等価線量と言うらしいです。