ピロリ菌でもわかる放射線防護シリーズ。
ベクレル
ベクレル(becquerel, 記号: Bq)とは、放射能の量を表す単位で...(中略)...1 s(秒)間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量が1 Bqである。例えば、毎秒370 個の原子核が崩壊して放射線を発している場合、370 Bqとなる。
ニュースなどで「牛乳等の暫定基準値 1 キログラムあたり 300 ベクレル」とか「○○産のホウレンソウから 1 キログラムあたり 24,000 ベクレルの放射性ヨウ素 131 を検出」とかありますね。このベクレルという単位について。
一言で言うと「どれだけの量の放射能を持っているか」という値になります。誤解されやすいと言うかちょっと難しいんですが、「放射線の強さ」や「人体への影響量」を直接に表している単位ではありません。単に、ある瞬間において計測された放射線の数=ベクレルということで、ベクレルで示された数値が高いことが、放射線による危険性が高いということに直結しないことに注意が必要です。
ガイガーカウンターが放射線を計測すると「ピッ」という音が鳴りますが、この時、CPM または CPS が単位として使われます。それぞれ、1 分間あたりのカウント数(Counts Per Minute)、1 秒あたりのカウント数(Counts Per Second)を意味します。もし、1 Bq の放射能を持つ物質から放射される放射線を漏らさずに計測できるガイガーカウンターがあれば、ベクレルの定義より、1CPS を指すでしょう。すなわち、以下の通りになります。
先ず、おさらいというか、基本的なところから。放射性物質は、原子核崩壊を起こすことで放射線を放出しますが、それと同時に原子核は別の原子に変化していきます。放射性物質は次々に原子核崩壊を起こし、どんどんと放射線を放出し、別の物質に変化していきます。この時、放射性物質が元来あった量から半分の量になるまでの時間を半減期と言います。例えば、ヨウ素 131 の半減期は約 8 日ですから、100 万個のヨウ素 131 の原子核を観察した場合、約 8 日後には、元あったヨウ素 131 の原子核が 50 万個に減っている(別の物質に変化している)ということです。ヨウ素 131 の量が半分に減っているので、ベクレルで示される数値も半分になります*1。
ところで、セシウム 137 という放射性物質があります。こちらの半減期は約 30.1 年ですので、100 万個のセシウム 137 の原子核が 50 万個に減るまでに 30 年以上かかることを意味します。つまり、同じ数の原子核であっても、ゆっくりと放射線を出しながら別の物質に変化していくということです。
もし、ヨウ素 131 とセシウム 137 について、同数の原子核があれば、半減期が短いほど、短時間のうちに多くの原子核崩壊を起こして放射線を出すということ、つまりベクレルで示される値が高いことがわかります。ですので、同じ「100 ベクレル」と一言に言っても、「100 ベクレルのヨウ素 131」と「100 ベクレルのセシウム 137」では、放射能の量が大きくことなることがわかるでしょうか? ヨウ素 131 は 8 日後には 50 ベクレル、16日後には 25 ベクレル...と、その量をどんどん下げていきますが、一方のセシウム 137 では、30 年経ってようやく 50 ベクレルです。その間、ずっーと放射線を出し続けるわけですから「100 ベクレルのセシウム 137」というのは、ヨウ素 131 と比較して、随分と物騒なものだとわかります。このように、同じベクレル値を示していても、そこに含まれる放射性物質によって放射能は大きく異なります。裏を返せば、何の放射性物質が含まれているのか判らないと、ベクレルで示される値だけで騒いでも仕方がないよ、ということです。
ベクレルを単位に示される値は、1 秒あたりにどれだけの数の原子核が崩壊して放射線を出しているかという指標、端的には「放射線の出た回数」であって、それら放射線の物騒さ(?)については考えていません。つまり「100 回殴った」ということだけで「助走をつけてグーパンチで 100 回」なのか「紙ハリセンで 100 回」なのかは判らないということです。
実際、放射性物質から放射される放射線は、放射性物質に応じてアルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線、X 線などなど色々な種類があって、それぞれ物騒さが異なります。ですので、「グーパンチ級」なのか「紙ハリセン級」なのか判らないと、ベクレルで示される値だけで騒いでも仕方がないよ、ということです。
一般に、放射線量を計測する装置として、ガイガー=ミュラー計数器やシンチレーション計数器が使われることが多いと思いますが、特にガイガー=ミュラー計数器では放射線の種類が特定できません。また、シンチレーション計数器でも特定の線種の計測しかできないようです。ですので、「100 ベクレル」と言われた時に、放射性物質全部コミコミで 100 ベクレルなのか、特定の放射性物質についてのみ 100 ベクレルなのか、ということが問題になります。「ヨウ素 131 を100 ベクレル検出」と言われた時には「じゃぁ、ヨウ素 131 以外の他の放射性物質(セシウムやストロンチウムなど)はどうなの?」ということも考えないと、数値としてはあまり意味がありません。
...と、まぁ、ベクレルという単位についてはこれくらいで。では、具体的に 1000 ベクレルと言われた時に、それは高い数値なのか? 低い数値なのか? ということについて。
人間の身体は様々な元素から構成されていて、酸素、炭素、水素などの他にも、鉄やマグネシウム、リンなどといった微量元素を含んでいます*2。カリウムは人体で 8 番目もしくは 9 番目に多く含まれる元素であり、生命活動にとって非常に重要な元素です。ここで、このカリウムについて見てみます。
カリウムは、体重 70kg のヒトの体内に組成比で 0.20%、重量にして約 140g 含まれているといわれています。天然のカリウムのうち、0.0117% は放射性を持つカリウム40 が含まれており、当然、ヒトの体内のカリウムもその存在比に従っています。カリウム 1g あたりの放射能強度は 30.4Bq になるので、ヒトは健康な状態においても、カリウムだけで既に 4,000Bq 以上*3の放射性物質を体内に含んでいるわけです。カリウムに限らず、酸素、炭素、窒素などの他の元素についても同様に放射性同位体が存在していますので、これらを足し合わせると、ヒトの体自体が相当量の放射性物質を含んでいることがわかるでしょう。
以上を踏まえて「1kg あたり 1,000 ベクレルのホウレンソウ」を考えて見ます。まぁ普通は1kg ものホウレンソウを一度に食べる人は居ませんので、大体 1 人前として 100g のホウレンソウを考えます。100g のホウレンソウでこんな感じで、調理前に水洗いをして、さらに調理の過程で茹でたりすれば、おそらく 80 ベクレル、もっと低くなるでしょう。ヒト自体が 4,000 ベクレル以上の放射性物質を持っている状態ですので、この 80 ベクレル(2%) の放射性物質を危ないと騒いだところで、何を今更、という感じがしないでもありません。ただ、乳幼児を持つお母さんにしてみれば、危ないと思われるかもしれませんが、それも人次第、ということになります。
寄せられたコメント (全 2 件中、最新 5 件まで表示しています)
間違っておりました。ご指摘の通りですので修正しておきました。ありがとうございますm(_ _)m
〉60Bq(ベクレル)=60CPS(カウント毎秒)=1CPM(カウント毎分)
この式は正しいのでしょうか?
「60Bq=60cps」までは分かりますが、数字が「=1cpm」に減るのかが分かりません。
1秒間に「60cps」ならば、1分間は「3600cpm」に思えてなりません。
何故60cpsが1cpmになるのかお教え願えますか?
「1Bq = 1Cps = 60Cpm」ならばシックリ行くのですが。